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名句の源泉を訪ねて 

Gloria in excelsis Deo グローリア イン エクスケルシース デオー いと高きところには栄光、神にあれ

クリスマスキャロルで有名なフレーズ

 クリスマスの時期に、このフレーズが入った歌を街中で聞くことが多いと思います。2021年には、ヤマザキのクリスマスケーキの CM にも使われていました。曲の後半で「グローーーーリア」と、音を伸ばして歌うフレーズが印象的であり、このように一音節に多くの音符があてられる旋律を「メリスマ」と言います。

 この歌は「あめのみつかいの」という題名で(これはカトリックでの題名で、プロテスタントにおいては「荒野の果てに」)、元はフランス語の歌 Les Anges dans nos campagnes 「天使たちが、我々の田畑において」です。日本語の歌詞では「あめのみつかいの うたごえひびく ほしかげさやかな まきばのそらに グロリア インエクシェルシス デオ」となっており、フランス語の原曲の歌詞は

Les anges dans nos campagnes
Ont entonné l'hymne des cieux,
Et l'écho de nos montagnes
Redit ce chant mélodieux
Gloria in excelsis Deo!

「天使たちが、我々の田畑で、天の賛歌を歌った。そして我々の田畑のこだまは、この美しい調べの歌を繰り返す:Gloria in excelsis Deo」となっています。原曲でも日本語版の「あめのみつかいの」でも、また「荒野の果てに」でも、Gloria in excelsis Deo がそのまま使われています。これほど、このラテン語の持つインパクトがあるということの表れではないでしょうか。

ラテン語訳聖書の一節

 Gloria in excelsis Deoいと高きところには栄光、神にあれ 」(『聖書 新共同訳』)というフレーズは、聖書のラテン語訳の、ルカによる福音書2章14節に見られるものです。ここで言うラテン語訳は、中世ヨーロッパで広く読まれた「ウルガータ(vulgata、普及版)」ではなく、古ラテン語訳(vetus Latina)というバージョンです。「ウルガータ」においては、ルカによる福音書2章14節は Gloria in altissimis Deo という訳になっており、意味はほぼ同じです。それでは、各単語を見てみましょう。

文中の単語 辞書の見出し語 品詞 見出し語の意味 性、活用・曲用
gloria gloria 名詞 栄光 女性単数主格
in in 前置詞 ~の中に  
excelsis excelsum 名詞 高所 中性複数奪格
Deo deus 名詞 男性単数与格

gloria は英語 glory 「栄光」や glorious 「栄光ある」、glorify 「賛美する」の語源になっており、excelsum は英語の culminate 「最高点に達する」や hill 「丘」と語源的つながりがあります。「(…に)あれ」に相当する動詞は明示されていません。

 元のギリシャ語では、当該箇所は Δόξα ἐν ὑψίστοις Θεῷ で、δόξα(dóxa)「栄光、意見」は英語 orthodox「正統派の」や paradox「逆説」の後半の語源になっています。ὑψίστοις は複数形で、ラテン語の excelsis も同じく複数形です。また、Θεῷ 「神」は英語 theology 「神学」、atheism 「無神論」、enthusiasm 「熱狂」の語源になっています。

 「いと高きところには栄光、神にあれ」の続きは、「地には平和、御心に適う人にあれ(ラテン語では et in terra pax hominibus bonae voluntatis)」となっており、話の中においてこのフレーズは天使が発した言葉です。ルカによる福音書2章ではキリスト降誕の場面が描かれており、イエスが誕生した際に主の天使が羊飼いたちに近づき、「救い主が誕生した」と告げ、その後この天使に天の大軍が加わり、「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。」と言ったと書かれています。ちなみに天使を指す英語 angel の語源はギリシャ語 ángelos 「使者」で、アニメのタイトルにも使われている euangélion 「良い知らせ」も ángelos の仲間です。

アブラハム・ホンディウス『羊飼いへの告知』(1663年)
アブラハム・ホンディウス『羊飼いへの告知』(1663年)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:De_verkondiging_aan_de_herders,_SK-A-1918.jpg

 

 ちなみに、今回取り扱ったフレーズと同じ意味の文章が JR の御茶ノ水駅、東京メトロの新御茶ノ水駅近くにある正教会の大聖堂「ニコライ堂」(正式名称:東京復活大聖堂)にも見られます。門の上部に、キリル文字で СЛАВА В ВЫШНИХ БОГУ と書かれています。最初の単語 слава 「栄光」は英語の loud「(声が)大きい」、また人名の Louis 「ルイ」などと同じ源にさかのぼることができます。вышних は вышний 「いちばん高い」の前置格で、вышний は先ほどのギリシャ語の原文にあった ὑψίστοις と同じ源にさかのぼれます。Богу、は Бог 「神」の与格です。ぜひ、ニコライ堂に行った際にはこのフレーズを見つけてみてください。

 

〈参照文献〉

『聖書 新共同訳』共同訳聖書実行委員会訳(日本聖書協会、1987)。
Derksen, Rick. (2015). Etymological dictionary of the Slavic inherited lexicon. Brill.

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著者略歴

  1. ラテン語さん

    東京古典学舎研究員。高校2年生からラテン語の学習を始め、2016年から Twitter(現 X)でラテン語の魅力を日々発信している(アカウント名: @latina_sama)。企業等からのラテン語翻訳の依頼も多数。2022年にはアニメ『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』とノートパソコン Chromebook のコラボ CM で使われるラテン語を監修した。著書に『世界はラテン語でできている』(SB クリエイティブ、2024年)、『座右のラテン語 人生に効く珠玉の名句65』(SB クリエイティブ、2025年)、『ラテン語でわかる英単語』(ジャパンタイムズ出版、2025年)などがある。

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●令和 4 年 4 月 25 日発行
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