リレー連載 実践で学ぶ コーパス活用術32 コーパスを使った英語授業: DDL(Data-driven learning)入門(1)――日英パラレルコーパスを活用する
32
佐竹 由帆
コーパスを使った英語授業:
DDL(Data-driven learning)入門
(1)
――日英パラレルコーパスを活用する――
この連載では、これまで様々なコーパスの活用法を扱ってきましたが、その多くは個人で調べることを主としたものでした。それでは、コーパスを英語の授業で活用する場合、どのような効果が期待できるでしょうか。今回から2回にわたり、「コーパスを使った授業」をテーマとして扱い、DDL(Data-driven learning: データ駆動型学習)について説明します。
1 DDL とは
DDL(Data-driven learning: データ駆動型学習)とは、学習者自身がコーパスで単語・句や文法項目を検索し、検索された用例を観察して、実際にどのように使用されているかを帰納的に発見し学習する方法です。学習者の「気づき」が導かれるため、発見した情報が記憶に残りやすく、[1] Tim Johns[2] が提唱して約30年経った現在、実践報告が増えてきています。例えば前置詞が必要か不要かについて、学習者はコーパスで単語・句を検索し、用例を見て正しく判断できる率が高いこと、[3] 調べたいコロケーションが辞書に載っていない時、学習者の英語力が高ければコーパスを使用して用例を調べることができること、コーパスで多くの用例を見ると学習した単語・句のアウトプットを促進する効果があること、[4] 学習者はコーパスを使用する授業に概ね肯定的であること[5] が報告されています。一方で、学習者の英語力が高くない場合、検索された英語用例の解釈が難しいことも指摘されており、[6] 授業でコーパスを使う際にはこの点を考慮する必要があります。
2 日英パラレルコーパスの活用
日英パラレルコーパスとは日本語の文と英語の文が対訳でまとめられたコーパスです。[7] DDL を中学生・高校生や英語があまり得意でない大学生が行う場合、日英パラレルコーパスを使用すると学習者は日本語の助けにより用例の解釈がしやすくなります。今回は教育用例文コーパス SCoRE と、教師・学習者向けの Web 検索サイトである WebParaNews を紹介します。
3 SCoRE とは
SCoRE(The Sentence Corpus of Remedial English)は、文法項目別に英語母語話者が独自に作成した著作権フリーの英語用例を日本語対訳文とともに利用できるコーパスで、初級やリメディアルの学習者を主な対象としています。[8] 約6,000の英語用例から成る小規模コーパスで、登録不要で誰でも無料で使用でき、使いやすいインターフェイスを備えています。
4 SCoRE 活用の実践例
まず SCoRE の URL にアクセスしましょう(http://score.lagoinst.info/)。
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4.1 パターンブラウザ
トップページ右上の、 SCoRE 日本語版 の パターンブラウザ をクリックします。パターンブラウザでは文法項目ごとに例文を見ることができます。ここでは学習者がつまずきがちな関係詞節を見てみましょう。画面左側の 文法パターン の、関係詞節 の “who/which/that” をクリックしてみます。
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5つのキーワード(“man who”, “person who”, “someone who”, “something which”, “thing that”)についての150の結果が表示されました。これらの検索結果は、キーワードをクリックしてキーワードごとに表示したり、左側の 文法パターン の一番下の、初級中級上級 [9] をクリックしてレベルごとに表示したりすることができます。授業でこれらの多量の用例を提示することで、学習対象の文法項目について、学習者の「気づき」を促す効果が期待できます。検索結果をより意識的に解釈するタスク(例: 学習項目についての英作文の誤りを、用例を見て直す)を行うと、「気づき」を促す効果はさらに高まるでしょう。[10] 教室で学習者がパソコンを使用できない場合には、印刷した検索結果を見ることでも、同様の効果が期待できるという研究結果があります。[11] また、教員の検索結果を OHP で提示することもできます。
4.2 適語補充問題
次に、「適語補充問題」を見てみましょう。右上の ツールの切り替え の ▼ をクリックし、「適語補充問題」をクリックします。
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次の画面が開きます。先ほどと同様に 関係詞節 の “who/which/that” をチェック し、左下の 初級 をクリックしてレベルを指定し、問題作成 をクリックしてみます。
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8問の問題が作成されました。空所に解答を入力し、左下の 採点 ボタンをクリックすると、採点結果と正答が表示されます。
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「適語補充問題」の使用により、学習者のレベルや苦手な文法項目にきめ細かく対応することができます。
4.3 SCoRE の他の機能
SCoRE には他に「コンコーダンス」の機能があり、単語と文法項目を指定してコンコーダンスラインを見ることができます。また、データをダウンロードして使用することもできます。 ツールの切り替え の ▼ をクリックし、「コンコーダンス」「ダウンロード」をクリックして使用します。
5 WebParaNews とは
WebParaNews は、著作権の問題をクリアした英語・日本語各15万文の日英新聞記事対応付けデータ[12] を検索できる、登録不要の Web 検索サイトです。学習者や教師を主な対象としており、誰でも無料で使用でき、検索語を入れるだけで検索結果が得られる使いやすいインターフェイスを備えています。[13]
6 WebParaNews 活用の実践例
まず WebParaNews の URL にアクセスしましょう(http://www.antlabsolutions.com/webparanews/)。
6.1 使用例1: discuss の用例を調べる
学習者は “discuss”(~について話し合う・議論する)を使用する時、不要な “about” をつけて “discuss about” としてしまうことがあります。学習者に “discuss” の用例を調べさせることで、正しい用法の「気づき」を促します。まず “discuss about” と入力し、Searchをクリックします。
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1件もヒットしません。“discuss about” とは言わないのでしょうか。[14] そこで “discuss” の本来の使い方を観察するために、“discuss” と入力し、Searchをクリックします。
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ヒットした用例を見てみると、“discuss” の直後に目的語がきています。難しい目的語(“amendment”, “regulations” など)がありますが、対訳の日本語で意味を確認することができます。
6.2 使用例2: happen の用例を調べる
学習者は英語で発信する時、日本語からの直訳を組み合わせて母語話者があまり使用しない不自然な英語表現を使用してしまうことがあります。ここでは学習者に “happen” の用例を調べさせることで、不自然な英語表現という問題について「気づき」を促します。
“happen” は「~ が起こる、生じる」という意味ですが、どのようなできごとが起こる時に使われるのでしょうか。例えば「拍手が起こる」と言いたい時、“applause”(拍手)と組み合わせて “applause happens” と表現するのでしょうか。試しに “applause happens” と入力し、Searchをクリックします。
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1件もヒットしません。よく使用する表現ではなさそうです。そこで “happen” がどのような語と共起するかを観察するために、“happen” を入力し、Searchをクリックします。
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“happen” の前後を見てみましょう。難しい語句は対訳の日本語で意味を確認することができます。1番の用例には “in times of war”, 2番には “crisis exposing many lives to danger”, 4番には “This must not be allowed” といった否定的な語句が見られます。また3, 6, 8, 9, 10番の用例では不確定なものを表す “what” が主語になっています。
“happen” は否定的な意味合いや非事実性(non-factuality)を帯びて使用されることが多いことが先行研究で明らかになっています。[15] 上記の検索結果にもそのような傾向が見てとれます。[16]
このような単語が使用される意味的傾向を Semantic prosody[17] と言いますが、語彙指導で扱われることはあまりなく、辞書に必ずしも載っていません。直訳の組み合わせによる不自然な表現を学習者は使用しがちですが、コーパスで用例を調べることにより、適切な単語の組み合わせかどうかがわかります。
7 ま と め
今回のテーマは日英パラレルコーパスの英語授業での活用であり、 SCoRE と WebParaNews を使用する実践例について説明しました。文法パターン別にコンコーダンスラインを参照する、前置詞の要不要や適切な単語の組み合わせを調べるなど、パラレルコーパスを使用して、学習者の「気づき」を促す様々な活動をすることができます。授業内活動の一つとして、パラレルコーパスをぜひ活用してみてください。
次回のテーマは、英語コーパスの、中上級学習者対象の英語授業での活用です。COCA を使用する実践例についてご紹介します。
〈参照文献〉
内山将夫、井佐原均(2003)「日英新聞の記事および文を対応付けるための高信頼性尺度」『自然言語処理』10(4): 201-220.
佐竹由帆(2013)「英作文におけるコーパス使用に対する日本の大学生の反応」『青山スタンダード論集』第8巻: 69-78.
中條清美他(2014)「フリーウェア WebParaNews オンライン・コンコーダンサーの英語授業における活用」『日本大学生産工学部研究報告 B』第47巻: 49-63.
中條清美他(2015)「教育用例文コーパス SCoRE の作成」『日本大学生産工学部研究報告 B』第48巻: 21-43.
西垣知佳子他(2011)「中・高生のためのコンコーダンス・ラインを利用したデータ駆動型英語学習教材の開発の試み」『千葉大学教育学部研究紀要』第59巻: 235-240.
Boulton, Alex (2009) “Testing the limits of data-driven learning: language proficiency and training.” ReCALL 21(1): 37-54.
Chujo, Kiyomi et al. (2012) “Paper-based, computer-based, and combined data-driven learning using a web-based concordancer.” Language Education in Asia 3(2): 132-145.
Johns, Tim (1984) “From printout to handout: grammar and vocabulary teaching in the context of data-driven learning,” in T. Odlin (ed.) Perspectives on Pedagogical Grammar. Cambridge: CUP, 293-313.
Johns, Tim (1991) “Should you be persuaded: two examples of data-driven learning.” English Language Research Journal 4: 1-16.
Louw, Bill (1993) “Irony in the text or insincerity in the writer?: the diagnostic potential of semantic prosodies,” in M. Baker, G. Francis, and E. Tognini-Bonelli (eds.) Text and Technology: In Honour of John Sincair. Amsterdam: John Benjamins, 157-176.
Partington, Alan (2004) “‘Utterly content in each other's company’: semantic prosody and semantic preference.” International Journal of Corpus Linguistics 9(1): 131-156.
Satake, Yoshiho (2015) “Comparison of dictionary use and corpus use: different effects on learning L2 phrases.” Proceedings of ASIALEX 2015 Hong Kong. Hong Kong: Hong Kong Polytechnic University, 222-229.
Tono, Yukio, Yoshiho Satake and Aika Miura (2014) “The effects of using corpora on revision tasks in L2 writing.” ReCALL 26(2): 147-162.
〈注〉
[1] 西垣他(2011)参照。
[2] Johns(1984, 1991)参照。
[3] Tono, Satake & Miura(2014)参照。
[4] Satake(2015)参照。
[5] 佐竹(2013)参照
[6] Boulton(2009)参照。
[8] 中條他(2015)参照。
[9] 初級は文長8語以下で語彙レベル米国小学教科書1-2年、中級は文長5-11語で語彙レベル米国小学教科書1-3年、上級は文長9語以上語彙レベル米国小学教科書4年以上の文をそれぞれ含みます(中條他 2015)。
[10] Satake(2015)参照。
[11] Chujo et al.(2012)参照。
[12] 内山、井佐原(2003)参照。
[13] 中條他(2014)参照。
[14] ヒットしない場合でも、必ずしも誤りではありません。頻度が低いのでデータに含まれていない、別の活用形ならヒットするが原形はない、という可能性も考えられます。
[15] Partington(2004)参照。
[16] WebParaNews ではレマ化(語幹が同じ表記形をまとめること、例えば “happen” を検索すると “happen”, “happens”, “happened”, “happening” がヒット)ができないため、検索結果に偏りが出てしまうことがあります。上記の“happen”の場合、助動詞とともに使用される例が多いのは、原形で検索していることが影響している可能性が考えられます。
[17] Louw(1993)参照。









